定期借家における通知期間経過後の扱い

 まず、通知期間中に通知をしないまま、借家期間が満了してしまった場合の扱いですが、この点は、
A 通知さえすれば、いつでも6ヶ月後に立ち退かせることができる、
B 期間満了後は、普通借家として更新される、
という両説があります(借地借家法38条4項は、「その終了を建物の賃借人に対抗できない」とありますから、不法占有者には
ならないと思います)。

 ところで、「通知期間の経過後、建物の賃借人に対しその旨を通知した場合においては、その通知の日から6ヶ月を経過した
後は、この限りではない」にある「通知期間の経過後」とは、普通に読めば、通知期間の経過後の時間をすべて指すのであり、
通知さえすれば、いつでも6ヶ月後に立ち退かせることができるとするA説が基本的には正しいと考えます。

 B説は、借地借家法38条4項に言う「通知期間の経過後」の意味を、契約期間終了の6ヶ月前から契約期間満了までと考え、
期間満了後は38条4項の「通知期間の経過後」にあたらないから、契約期間満了後に通知をし、6ヶ月を経過しても定期借家権
は終了しないとするのでしょう。すなわち、契約期間満了までに通知をしないと、契約期間満了後は普通借地権になってしまう
とするものです。

 しかし、B説のように考えるのは、条文の体裁上も無理がありますし(「通知期間の経過後」としかなっていないのに、なぜ、契約
期間満了までに限るのか分からない)、また、定期借家権として貸したのに、通知を忘れたまま契約期間が満了してしまうと、その
時点で突如として普通借家権になるというのも、妥当とは思えません。

 ただ、A説にも問題はあります。A説を主張する人は、契約期間満了後、何十年、何百年たっても、定期借家権のままだと言いま
す。つまり、この説を取ると、通知をしないまま、定期借家権の契約期間を満了させれば、その後は、いつでも6ヶ月の予告期間を
おけば解約できることになってしまうのです。

 定期借家権というのは、本来は、一定の期間を定め、その期間が満了することによって契約も終了し、その後、さらに一定の期間
を定めて定期借家契約をするということのくり返しで、契約が継続していくことが予定されているはずです。契約期間の定めもないま
ま、6ヶ月の猶予期間をおけばいつでも解約できるというような状態がいつまでも続くというのは妥当ではありません。

 最初の契約が、黙示の合意によって別の契約に変わるということはよくあります。たとえば、資材置き場として土地を貸したとして
も、その後、賃借人がその土地に建物を建て、賃貸人がそれを知りながら何年も放置し、賃料も受領しつづけていたという場合に、
それまでの民法上の土地賃貸借契約が、借地借家法上の借地契約に変わってしまうというような場合です。

 したがって、原則としてA説に立ち、通知さえすれば、いつでも6ヶ月後に立ち退かせることができるということでよいと思いますが、
この状態が、1年なり2年なり続いた時は、黙示の合意によって普通借地権に変わり、その後は、6ヶ月の猶予期間をおいても解約で
きないとすべきです。

 1年なり2年なりというが、具体的に何年なのかという質問に対しては、これは種々の事情を考慮して裁判所が判断することで
あり、一概には言えないとしか答えられません。いずれにしても、大家さんは、通知期間のことを忘れないようにしておくことが大
切です。

定期借家権を進めた人は、裁判官の判断の余地をできるだけ減らして、グレーな部分を減らそうという発想を持っているようです
から、このようなグレーゾーンが生じることをいやがるのでしょうが、上記のような考えが一番妥当でしょう。

 なお、A説の方は、一度、当事者が納得して定期借家契約をした以上、それがいつのまにか他の契約に変わるのは不当だと主張
するようです。しかし、契約期間を定め、それが終了すると再度契約をしなおすという、定期借家法が本来予定しているような形で
契約関係を継続しているならともかく、定期借家法が本来予定しないような形で契約関係を継続している以上、黙示のうちに他の契
約に変わってしまっても、それは仕方ないし、むしろ当然といえるでしょう。

 ただ、いずれにしても説が分かれるような形で条文が作られているというのは、妥当とは言えないかもしれません。

(青葉法律事務所 森田茂夫、16 Feb 2000)


 接道義務を満たしていない土地について


 実は、同じようなケースで、つい最近まで裁判をしていました。

 その件は、本来、建築基準法上の「道路」に接していないたため、建物を建築できないのに、
長屋形式で建築確認を取り、その後切り離して2棟の建物として売却したという事例です。
そのため、2棟のうち1棟が「道路」に接していませんでした。

「道路」に接していない建物を購入したユーザーが、10年たってその事実を知り、売主に対して
は瑕疵担保責任を理由に(権利の瑕疵)損害賠償請求をし、仲介した宅地建物取引業者に対して
は、媒介契約違反、不法行為などを理由に損害賠償請求した事案です。

 この件では、重要事項説明書に接道義務を満たしている旨の誤った記載があったので、それが
理由になって、売主、宅地建物取引業者の損害賠償義務が認められました。

 認定された損害額は、更地価格の4割位だったと思います(建替えできない土地なので4割程度
減価していると認定したものです。本当に売るとなれば本来の価格の6割では売れないでしょうが、
隣の土地を取得するなど、土地が生き返ることもあるので、そんなことも考慮されて4割程度の
減価ということでした)。

 今回の件の場合も、売主に対しては、買主が瑕疵に気がついてから(接道義務を満たしていない
土地だと気がついてから)1年間は瑕疵担保責任の追及ができます。宅地建物取引業者に対しては、
不法行為に気がついてから(接道義務を満たしていない土地だと気がついてから)三年間は不法
行為責任の追及ができます。

 今から道路位置指定が取れるならそれにこしたことはないので、損害賠償のことを話して、位置
指定をとる費用を、売主や宅地建物取引業者に出させたらどうですか。私が訴訟をした件の場合は、
公道から20数メートル引っ込んでいたため、たとえ4メートル幅があっても、道路位置指定が取れ
ない場合でした。

いずれにしても、皆さんおっしゃっているように,売買契約をした当時の重要事項説明書で、接道
義務のことがどう記載されているかがポイントになると思います。

(青葉法律事務所 森田茂夫)




瑕疵担保責任について


(質問)
借家人が現在入居している家を、その借家人に売買する場合、売主に瑕疵担保責任はないものとして
契約書を作成する予定。売主に瑕疵担保責任はあるのか、あるとすればその責任の範囲等はどの程度か。
築23年の家。借家人が入居して2年以上経過。なお売主、買主とも一 般。

(答)
 借家人に売る家は、「新築」ではありませんから、住宅品質確保促進法の適用はありません。つまり、
構造体力上主要な部分については、強制的に10年間の瑕疵担保責任を負わせるという規定の適用は
ありません。

 次に、売主が宅地建物取引業者の場合、瑕疵担保責任を負わないという特約をしても、宅地建物取
引法の規定により、その特約は無効になります。その場合、買主は瑕疵の存在を知ってから1年以内であ
れば、売主に瑕疵担保責任を追及することができます。
 ですから、売主が宅地建物取引業者の場合には、有効な特約をしたければ、引渡しをしてから2年間は
責任を負うという特約にしなければなりません(宅地建物取引業法によって、引渡し後、2年以上の責任期間
を定める特約でなければ有効にならないことになっています)。

 売主が宅地建物取引業者でない場合には、今度は、売主が、消費者契約法にいうところの「事業者」である
かどうかが問題になります。
 売主が法人である場合、あるいは、売主が個人であっても、その人の事業として、あるいは事業のために、家を
売る場合は、売主は「事業者」になります。その場合は、瑕疵担保責任を免除するという特約は、消費者契約
法上、無効になり、やはり、買主は瑕疵の存在を知ってから1年以内であれば、売主に瑕疵担保責任を追及す
ることができます。
 事業者の場合は、瑕疵担保責任を全部免除するのではなく、一部免除するだけにしなければなりません。

 売主が、宅地建物取引業者でもなく、事業者でもない場合は、瑕疵担保責任を全部免除する特約は有効です。
 質問の場合は、売主、買主とも、一般の方とのことですので、この場合にあたるのかもしれません。

 上記のような感じになりますが、いろいろな法律が錯綜しているので、分かりにくいですね。
(青葉法律事務所 森田茂夫)




自力救済について

管理業者の方から、次のような質問を受けました。 「アパートを貸していたが、賃料や駐車場代を滞納したまま、駐車場に車を置きっ放 しにして、賃借人が夜逃げしてしまった。この車を簡単に処分する方法はないか」 というものです。
法的に厳密に言えば、滞納賃料請求、滞納駐車場代請求の訴訟を起こし、勝訴した後 に、滞納賃料を請求債権として車を差押え、大家さんが自分で買い取って捨てるとい うのが一番まともなのでしょうが、古い車一台を処分するにしては、手間がかかりす ぎます。
また、他の法的手続としては、大家さんが滞納駐車場代を被保全権利として留置権を 主張し、この留置権をもとにして車の競売を申立てることも可能でしょうが、これも 時間と費用がかかります。
中古車販売業者に査定してもらって、その価格が低いなら、大家さんの方で車を廃棄 処分してしまうということも考えられますが、他人の物を勝手に廃棄してしまうわけ で、厳密に言えば器物損壊罪などの犯罪が成立し(賃借人が後から出てきてクレーム を言ったとしても、実際には、警察は取り上げないでしょうが)、やや乱暴な気もし ます。
法律はともかくとして、管理の実務上、何か良いやり方は無いでしょうか。

この駐車場に放置された車の処分の件について、私なりに考えてみました。 実力行使は、法的には自力救済といい、自力救済が認められる場合は、違法性がなく なるので、(刑事的な)器物損壊罪も成立しないし、(民事的な)損害賠償請求権が 成立することもなくなります。
自力救済は、次の場合に認められるとされています。
(最高裁判例)
法律上の手続によったのでは、違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能ま たは著しく困難であると認められる、緊急やむを得ない特別の事情がある場合に認め られる。
(学説)
自力救済によって守られるべき権利と、相手方の失う利益との比較、あるいは、相手 方の不法の明白さの程度などから、社会的に是認される範囲で、自力救済をある程度 認めてもよい。
また、横浜地裁昭和63年2月4日判決は、次の事情がある場合に、賃借人がアパートの 廊下部分に置いた荷物を、賃貸人が実力で撤去したことにつき、自力救済を認め、賃 借人の賃貸人に対する損害賠償請求を認めませんでした。
・ 賃借人はアパートの廊下部分に荷物を何ヶ月も置いておいた。
・ 賃借人は、アパートに引っ越してきた当初から、廊下に荷物を置く意思があった と認められる。
・ 賃貸人は賃借人に対し、何度も督促、警告を重ねた。
・ 荷物はほとんど価値のないもので、それほど量も多くなかった。

そうすると、駐車場に放置された自動車の場合も、
・ 何ヶ月も置きっぱなしにされている(写真を撮る)。
・ 車を撤去するよう車の所有者に何度も催告をした(督促の書面を残しておく)。
・ 督促なつかない場合は、立て看板を立てて催告した(写真を撮る)。
・ 連帯保証人にも督促をした(督促の書面を残しておく)。
・ 車の価値はほとんどなかった(業者を呼んで査定してもらっておく)。
などの事情があれば、自力救済が認められ、法的にも適法なものとされるかもしれま せん。
実際には、賃借人が出てきてクレームをいうことはほとんどないでしょうが、仮にク レームを言ってきた場合でも、上記のような事情と自力救済の理論を立てに取ると良 いのかもしれません。 もちろん、自力救済が認められるかは、個々の事情によるので、リスキーな面は残る と思いますが。

駐車場にある車やアパートの廊下に置いてある荷物を、自力救済として処分すること は認められる場合が多いと思うのですが、賃貸建物から賃借人の荷物を搬出すること は、自力救済として認められることは極めて少ないと思いますので、この点は注意が 必要だと思います。
過去に、賃貸建物からの荷物搬出が自力救済として認められた判例があります。その ときには次のような条件がありました。
・ 明渡し期限から長期間が経過している。
・ 賃貸人が鍵を取り換えても、賃借人からは何らのクレームが無かった。
・ 荷物搬出の通知に対しても、賃借人は内容証明郵便による簡単な返事をしただけ だった。
・ 搬出して物品は、室内を保管場所としたり、シートを被せたりして、風雨を避け る措置を講じていた。
しかし、この判例は異色とされており、通常はこのような条件があっても、法的手段 をとらずに賃貸建物から荷物を搬出すれば、違法をされる可能性が高いと思います。
(青葉法律事務所 森田 茂夫)



固定資産税の評価基準について

「評価額は公示価格の7割程度を目標とする」という自治省事務次官通達に関し て、自治省やマスコミを訴えることができないかということですが、次のように考え ることができると思います。

各市町村長は、自治大臣の告示による評価基準により各宅地の価格を決定しま す。そして、市町村長の決定に不満がある土地所有者は、固定資産評価審査委員会に 不服を申し出ることができ、さらにこの審査会決定に不服なら、地方裁判所に審査決 定の取り消し訴訟を提起することができることになっています。
ところで、自治省事務次官の前記の通達に対して、訴訟を提起できないかとのこ とですが、現在の法律のもとでは訴訟を提起することはできません。それは、次の理 由によります。
@ 土地の評価に対する不服申立方法は、上記のように、固定資産評価審査委員会に 対する不服申立、さらに審査決定に対する地方裁判所に対する訴訟提起という方法に 限られることが地方税法上明記されている(つまり、これ以外の方法、たとえば通達 を取り消せというような方法は現在の法律では認められていない)。
A 評価に不服な土地所有者は、自分の土地に対する市町村長の決定、審査決定を問 題にすればよく、その元になる通達を問題にする必要はない。
B 法律上は、通達はあくまで参考であり、市町村長が通達に拘束されることはない から、そのような通達を訴訟の対象にしても意味がない。

ただ、そうは言っても、市町村長は通達を非常に重視しており、実際上は通達ど おりにことが運ぶことを考えると、地方税法など改正して、裁判で、通達を直接取り 消せるようにできないかということも考えられます。しかし、具体的な個人の権利義 務を離れたところまで、裁判官が決めることができるというのは、裁判官も神様では なく、いい人もいればおかしな人もいること、裁判官は選挙民の選挙を受けているの ではないことからすると、やはり問題ではないかと思います。

それなら、通達の取り消しということではなく、自治省やマスコミに対する慰謝 料請求、損害賠償請求ができないかということも考えられますが、通達によって不景 気になったというのは、政策の問題で、不景気になった反面、土地が買いやすくなっ たということもありますし、裁判官が政策の良し悪しを判決で決めるというのも、や はり問題があるのではないかと思います(とくに、私の場合、仕事上毎日のように裁 判を行っていますが、裁判官にもおかしな判断をする人が結構いるというのが、経験 上分かっているので)。なお、表現の自由というのがありますから、土地を下げるべ しとマスコミがキャンペーンをしたとしても、これは訴えることができません。

自治省やマスコミに対して訴えを起こせば、訴状を受け付けてもらうことはでき ます(どんな事件でも訴状は受け付けてくれます)。そして、その訴訟が、通達の取 消を求めるものなら、訴えは却下ということになり(もともと地方税法上訴えること ができないから)、損害賠償を求めるものなら、却下にはなりませんが、敗訴は確実 で、請求棄却ということになります。

結局、いくら不景気の原因を作った人でも、裁判で白黒をつけることはできない し、、また妥当でもないということではないでしょうか。
( 青葉法律事務所 森田 茂夫 )